2026年、ドイツ・ボンで開催されたCONTACT Software主催の「CONTACT Open World 2026」。CONTACT Softwareのパートナーとして日本市場で活動するGBSも現地に参加し、基調講演や各種セッションを聴講しました。
今回のOpen Worldで特に印象的だったのは、単に「AI機能が追加された」ということではありません。CONTACT Softwareが、従来のPLMを中心とした製品群から、AI、IoT、デジタルツイン、製造、サービスまでをつなぐ統合プラットフォームとして、その位置付けをさらに明確にしていることです。
AIが設計案や変更案を生成できるようになるほど、「どの情報をもとに生成されたのか」「どの製品・構成に対する提案なのか」「誰が評価・承認したのか」といった製品情報の文脈とトレーサビリティが重要になります。
本記事では、CONTACT Open World 2026で示された方向性を、日本の製造業におけるPLM、AI活用、Smart Factory、Digital Serviceという観点から整理します。

CONTACT Elementsは「個別製品」から共通プラットフォームへ
CONTACT Elementsを中心としたプラットフォーム戦略
CONTACT Softwareの戦略の中心にあるのが、「CONTACT Elements」という共通プラットフォームを軸に、これまでの製品・機能を再整理する考え方です。
従来、CONTACT Softwareの製品群は、CIM DatabaseによるPLM、Project Officeによるプロジェクト管理、Elements for IoTによるIoTなど、それぞれの製品・ソリューションとして説明されることが多くありました。
今後は、これらをCONTACT Elementsという共通プラットフォーム上のBuilding Blocksとして整理し、業界や企業ごとの事前設定と、個別要件に対応する拡張性を組み合わせて提供していく方向が示されています。
講演では、この考え方を象徴する表現として「Changing the story, not the software」という言葉が使われました。ソフトウェアそのものを全面的に作り替えるのではなく、CONTACT Elementsを中心に、市場への見せ方や提供方法を再構成していくという考え方です。

EngineeringとPLMを核に、製造・IoT・サービスへ広がる
CONTACT Elementsは、EngineeringとPLMを中核にしながら、製品ライフサイクルの周辺領域へ活用範囲を広げています。
- Manufacturing:製造業務、生産管理、MES等との連携
- IoT:センサーデータ、デバイス管理、接続製品
- Service:保全管理、顧客サービス、アフターサービス
- Systems Engineering:要求、アーキテクチャ、テスト、トレーサビリティ
- AI / Automation:Industrial AI、AIエージェント、業務自動化
こうした領域を横断して活用するため、講演ではデータの標準化、API、Clean Data、そしてContext(文脈)の重要性が繰り返し取り上げられていました。
CONTACT Softwareについて詳しく知りたい方へ
CONTACT ElementsやCIM Database、BOM管理、設計変更管理など、CONTACT Softwareの製品・導入支援については、製品紹介ページで詳しくご紹介しています。
Industrial AI:「質問するAI」から「業務を動かすAI」へ
Ask、Suggest / Understand、Actという3段階
CONTACT Softwareが示すIndustrial AIの方向性は、大きく3つの段階に整理できます。
- Ask:エンジニアやビジネスユーザーがAIへ質問する
- Suggest / Understand:AIが業務や製品の状況を理解し、候補や提案を示す
- Act:制御された範囲の中でAIが処理や業務アクションを実行する
これは、AIが単なる質問への回答ツールから、エンジニアリング業務を支援する存在へ発展していく方向を示しています。
一方で、AIが無制限に自律判断するという考え方ではありません。講演では、Human in the Loop、人による理解・確認、Audit Trail(監査証跡)を組み込むことが重要な設計原則として示されていました。
AIに必要なのは「データ量」だけではなくEngineering Context
CONTACT Fourier AIを含むIndustrial AIで重要になるのが、エンジニアリングデータのContextです。
AIが製造業の業務で有用な提案をするためには、単に大量の文書や数値を与えるだけでは十分ではありません。
- どの製品に関するデータなのか
- どの構成・バージョンなのか
- どのプロジェクトに属するのか
- どの顧客要求・製品要求に対応するのか
- どの業務プロセスの情報なのか
- 過去にどのような判断が行われたのか
といった情報同士の関係が必要になります。
その意味でAI時代のPLMには、製品情報を単に保管するだけでなく、AIが利用できる正しいProduct Contextを提供する情報基盤としての役割が求められるようになります。
AI時代にはPLMの役割そのものが変わる
確定した製品情報と、AIが生成する候補を分けて管理する
今回の講演で特に印象的だったのが、AIによって設計案や変更案を生成するコストが下がるほど、エンジニアリングのボトルネックが「作ること」から「どの案を採用するかを評価し、選択し、承認すること」へ移っていくという考え方です。
これまでのPLMでは、正式に承認された図面、BOM、仕様、文書などを、現在の製品を表す確定情報として管理してきました。CONTACT Softwareの講演では、こうした正式な製品情報を「Product Truth」と表現していました。
一方、生成AIやAIエージェントを利用すると、一つの要求に対して複数の設計案や変更案、対応方法を短時間で生成できるようになります。これらは、まだ採用が決まっていない「製品の将来候補」であり、講演では「Possible Futures」という言葉で整理されていました。
重要なのは、AIが生成した候補を、そのまま正式な製品情報として扱わないことです。検討中の設計案や変更案と、承認済みのBOMや仕様が同じように扱われると、どれが現在有効な製品情報なのか分からなくなってしまいます。
AI時代のPLMには、「確定した製品情報」と「これから評価・判断する候補」を明確に分けながら、その候補がどの要求や製品構成から生まれ、どのような検証・承認を経て正式情報になったのかを追跡できることが、これまで以上に重要になります。
AIが候補を作り、PLMが判断プロセスを支える
AIが変更案を生成したとしても、それを実際の製品変更として採用するには、複数の観点から確認する必要があります。
- 要求への適合性:顧客要求や製品要求を満たしているか
- 影響分析:部品、図面、ソフトウェア、製造プロセスなどへどのような影響があるか
- 検証:品質、安全性、テスト等に問題がないか
- 意思決定の根拠:なぜその案を採用したのか
- トレーサビリティ:どの情報をもとに、いつ、どのAIが提案し、誰が承認したのか
AI時代のPLMは、「製品が現在どうなっているか」を記録するだけでなく、製品をどのように変えるべきかという判断プロセスを支える基盤へ役割を広げていくと考えられます。
Fourier AIはエンジニアリング業務へどう組み込まれるのか
単なる「PLMの横にあるチャットAI」ではない
CONTACT Fourier AIの事例を見ると、目指しているものはPLM画面の横にチャット機能を追加することではありません。
PLMに蓄積された製品情報、要求、文書、BOM、過去案件などのエンジニアリングナレッジを、次の業務へ再利用する仕組みとしてAIを組み込むことが特徴です。
大手電機・接続機器メーカー:製品属性入力とETO類似案件検索
ある大手電機・接続機器メーカーでは、Fourier AIを利用した製品属性入力支援が紹介されました。
技術資料や仕様書からAIが情報を抽出し、例えば次のような属性の候補をPrefill(事前入力)します。
- 定格電圧
- 定格電流
- 装着方式
- 筐体色
- 動作温度範囲
重要なのは、AIがそのまま正式データとして登録するのではなく、AIによる提案 → 人による確認 → 正式登録という流れになっていることです。
さらにETO(Engineer to Order:受注設計)の領域では、新しい顧客要求をAIが分析し、過去の類似プロジェクト、要求、関連BOMなどを検索・提案するユースケースも紹介されました。
過去の設計資産を再利用できる可能性を早い段階で判断できれば、見積や設計の出発点を効率化できます。
大手産業設備メーカー:PLM移行支援と3D類似検索
別の大手産業設備メーカーからは、PLM移行時のデータチェックや3D設計データ活用へのAI適用が紹介されました。
既存システムからPLMへデータを移行する際には、データの不整合、欠落、関連情報の確認など、多くの作業が必要になります。
紹介されたアプローチでは、AIが次のような作業を支援します。
- データ不整合の検査
- 影響を受けるドキュメントの特定
- 修正が必要な項目の提案
ここでもAIによる無条件の自動修正ではなく、AIが候補を示し、人が確認したうえで反映するという考え方が採られています。
また、CAD形状の幾何学的特徴をVector化し、名称や分類だけに依存せず類似した3D部品を検索する技術も紹介されました。既存部品の再利用や重複設計の抑制につながる可能性があります。
CONTACTの次世代ロードマップ:Fourier AI、XLM、PLM拡張
CONTACT Open World 2026では、今後のロードマップも紹介されました。
ここでは、現在利用可能な機能、計画中の機能、将来の研究・構想を区別して見ることが重要です。
Fourier AI:今後計画されている方向
Fourier AIについては、今後の方向として次のようなテーマが紹介されました。
- Agentic Authoring:AIによる複数ステップの作業支援・自動化
- Event-driven Agents:システムイベントをきっかけにしたAI処理
- Multi-Agent Orchestration:複数AIエージェントの連携
- Geometry / Design Intelligence:CAD形状・設計データに対するAI分析
また、Generative CADについても、将来に向けた研究テーマとして紹介されました。AIが要求や設計条件をもとにCADモデルや複数の設計候補を生成するようになれば、「設計案を作ること」以上に、それらをどう評価し、選択し、正式な製品情報へつなげるかが重要になります。これは、今回紹介された「Product Truth」と「Possible Futures」という考え方にもつながるテーマです。
XLM:PLMをSystems Engineeringへ拡張する
今回のロードマップで注目されたもう一つのテーマが、XLM(Extended Lifecycle Management)です。
XLMは単独の要求管理ツールではなく、要求からアーキテクチャ、各Engineering Discipline、テストまでをライフサイクルとしてつなぐ構想です。
- Requirements Management:要求の定義・管理
- Architecture Management:システムアーキテクチャ管理
- Mechanics / Electronics / Electrical / Software:複数分野の情報連携
- Test Management:テスト計画・実行・結果管理
- Traceability:要求から設計、テストまでの追跡
講演では「PLM is the basis for XLM」という考え方が示されました。XLMがPLMを置き換えるというより、PLMを製品情報の基盤として、Systems Engineering全体へ対象範囲を広げる方向です。
PLM領域:現在提供中の主な機能
- Engineering Change Management 2.0:Problem Report、Change Request、Change Orderを独立したオブジェクトとして扱う変更管理
- Version Control / Variant Management:製品仕様やバリアントを含む構成管理
- PDF Viewing / Redlining:PDF表示・注釈機能。Optional Componentとして提供
- Digital Signing:デジタル署名・認証関連機能の刷新
PLM領域:計画中として紹介された主な機能
- M-BOM 3D Visualization:M-BOMへ再構成した製品構造での3D表示
- Product Structure Templates & Placeholders:標準製品構造とPlaceholder、Ruleを活用したCTO / ETO支援
- PLM-ERP統合の強化:ERP連携技術や標準連携の拡張
- Intercompany Collaboration:顧客、サプライヤー、協力会社等とのシステム上での協業
Configuration Managementについても、今後のPLMを構成する重要なテーマの一つとして取り上げられました。
PLMでBOM・設計変更・製造情報をどうつなぐか
CIM Databaseでは、BOM、図面、文書、設計変更などの製品情報を関連付け、設計から製造・サービスまでをつなぐ製品情報基盤を構築できます。
設計から工場へ:Smart Factoryに広がるCONTACT Elements
大手鍛造部品メーカー:工場全体のデジタル化
CONTACT Elementsの適用範囲は、設計部門だけではありません。
ある大手鍛造部品メーカーの事例では、工場領域における幅広いデジタル活用が紹介されました。
- 生産状況を可視化するダッシュボード
- 品質管理
- 原材料管理
- 生産計画・進捗の動的な管理
- 作業者向けダッシュボード
- 作業者のスキル管理・教育
- 設備保全のデジタル化
- 金型管理
- 予知保全
- AI画像認識による検査・監視
- デジタルツイン
ここで重要なのは、個別の業務を単にデジタル化しているのではなく、生産・品質・設備・作業者など、工場で発生するさまざまな情報をつなぎ、製造現場全体の改善に活用しようとしていることです。
IoTセンサーから取得した設備データを、製造、品質、材料、保全などの業務情報へつなぎ、さらにAIやPLMと連携する方向が示されています。
大手製造企業:小さなIoTユースケースから保全業務へ
Smart Factoryは、必ずしも工場全体を一度にデジタル化する必要はありません。
ある大手製造企業では、製造設備を支えるCooling / Filtering Systemの状態監視からIoT活用を開始した事例が紹介されました。
特に興味深いのは、単にセンサーデータをダッシュボードへ表示するだけではなく、
Sensor → IoT Event → Service Case生成 → Maintenance Task
という流れで、設備状態の変化を実際の保全業務へつないでいる点です。
IoTの価値は「見える化」だけではなく、異常やイベントを、誰が何をするのかという業務プロセスへ接続することで高まります。
製品を売るだけでなく「成果」を提供するDigital Serviceへ
ComponentからSystem、そしてOutcomeへ
Open Worldでは、製造業のビジネスモデルについても議論されました。
顧客が本当に必要としているのは、必ずしも機械や部品そのものではありません。
- 生産量
- 品質
- 設備の稼働率
- ダウンタイムの削減
- 効率性
- Total Cost of Ownership
といった業務上の成果(Outcome)が、本来の顧客価値です。
こうした成果を継続的に提供するためには、Connected Product、Data & AI、Digital Platform、Serviceを組み合わせる必要があります。
大手駆動機器メーカー:Engineering Knowledgeを顧客サービスへ
ある大手駆動機器メーカーからは、PLMに蓄積されたEngineering Knowledgeを、社内エンジニアだけでなく顧客の製品選定にも利用するDigital Sales Serviceの考え方が紹介されました。
顧客が要求条件を入力すると、エンジニアリング情報をもとに駆動システムのSizing、Configuration、Quotationへつなげていきます。
つまりPLMに蓄積した製品知識を、製品開発だけではなく、顧客が製品を選択・判断する段階から活用するという考え方です。
Knowledge Graphを利用し、多数の技術文書を単なるPDFの集合としてではなく、必要な情報とContextを検索・利用できる形へ変える取り組みも紹介されました。
包装機械メーカー:IoTを顧客向けSubscription Serviceへ
包装機械メーカーの事例では、CONTACTのIoT基盤を自社顧客向けDigital Serviceとして利用する取り組みが紹介されました。
顧客へ提供する情報には、例えば次のようなものがあります。
- OEE
- Production Data
- Alarm / Alert
- Reject Data
- Machine Documentation
特徴的なのは、Alarm Listから関連するMachine Documentationへ直接アクセスし、異常発生 → 状況確認 → 必要な情報の参照という業務をつなげていることです。
将来的には、蓄積したHistorical Dataを活用した分析、顧客サポート、Maintenance Management等への拡張も計画されています。
GBSがOpen World 2026から感じたこと:AI時代にPLMが果たす役割
AIは大量の候補を作れる。しかし正式な製品変更には判断が必要
今回のOpen Worldを通じて見えてきたのは、「AIが普及すればPLMが不要になる」という方向ではありません。
AIは今後、次のような作業を支援できるようになると考えられます。
- 顧客要求を読み取る
- 設計候補を生成する
- BOM候補を提示する
- 過去の類似案件を探す
- 設計変更案を提案する
- テストケースの作成を支援する
しかし製造業では、「良さそうな答え」が生成されるだけでは、実際の製品情報として利用することはできません。
その提案が、
- どの製品のものなのか
- どの構成・バージョンに対するものなのか
- どの要求から生まれたものなのか
- どの部品や製造工程に影響するのか
- 誰が、いつ、どのような根拠で承認したのか
を管理する必要があります。
そのため、AI時代にはPLMが、AIへProduct Contextを提供すると同時に、AIが生み出した提案を正式なEngineering Processへ接続する基盤として重要になっていくとGBSでは考えています。
日本の製造業で考えるべき4つのポイント
CONTACT ElementsやAI活用を日本の製造業へ展開する際には、AI機能だけを先に導入するのではなく、次の観点から情報基盤を整えることが重要です。
- Clean DataとContextの整備
製品属性、BOM、Revision、要求、プロジェクト等の情報を整理し、相互の関係を明確にする。 - Engineering Change Processの整理
AIが生成した候補と正式なProduct Truthを区別し、評価・検証・承認するプロセスを明確にする。 - 製造・保全・サービスへの拡張
PLMを設計部門だけのシステムと考えず、必要に応じてERP、MES、IoT、サービス領域との役割分担を整理する。 - Digital Threadの設計
設計 → 製造 → 稼働 → サービス → フィードバック → 次の開発という情報の流れをつなぐ。
AIエージェント時代の設計変更管理を詳しく知りたい方へ
2026年11月17日開催のオンラインセミナーでは、要求、BOM、図面、製造情報などをPLMでつなぎ、AIエージェントが設計変更の影響調査をどこまで支援できるのかを解説します。
まとめ:AI、PLM、製造、サービスを一つのDigital Threadでつなぐ
CONTACT Open World 2026から見えてきた最大の変化は、特定の一つの新機能ではありません。
製品企画 → 設計 → PLM → 製造 → IoT・稼働 → 保全・サービス → Customer Feedback → 次の製品開発
という製品ライフサイクル全体をDigital Threadとしてつなぎ、その情報をAIも利用できるようにする方向が、より明確になってきています。
CONTACT Elements、Fourier AI、XLM、Smart Factory、Digital Serviceは、それぞれ別々のテーマに見えます。しかし、すべてをつなぐ共通点は製品と業務のContextを維持しながら、ライフサイクル全体の情報を利用することです。
AIが大量の候補を生成できるようになるほど、正確な製品情報、構成管理、トレーサビリティ、承認プロセス、判断根拠の重要性はむしろ高まります。
GBSでは、CONTACT Softwareの導入だけでなく、BOMや設計変更管理の整理、既存CAD・ERP等との連携、AIエージェント活用を見据えた製品情報基盤の構築まで、企業の現在の業務・システムに合わせて支援しています。
自社のPLM・AI活用に当てはめて検討したい方へ
「まずPLMのどこから整備すべきか」「既存のPDMやERPをどこまで残すべきか」「AI活用の前にどのデータを整理すべきか」といった段階からご相談いただけます。
